2012年8月14日火曜日

 


句楽詩区 8月号
 
    2012・08・14





 
 
 
さとう三千魚 ・・「はなとゆめ」4

 
加藤 閑  ・・・夏野の果て
 
古川ぼたる ・・・8月の白い道
         葛の花




さとう三千魚 「はなとゆめ」04  

冷却

木漏れ日が揺れて、いました
木漏れ日が揺れて、いました

今朝、きみのいない庭に風が吹いていました
今朝、きみのいない庭に風が吹いていました

庭には藍色の朝顔の花がふたつ並んで咲きました
庭には藍色の朝顔の花がふたつ並んで咲きました

モコはテーブルの下で眠っています
モコはテーブルの下で眠っています

モコの柔らかい胸がゆっくりと膨らんで静かにモコは息をしています
モコの柔らかい胸がゆっくりと膨らんで静かにモコは息をしています

藍色の朝顔の薄いはなびらが揺れて、いました
藍色の朝顔の薄いはなびらが揺れて、いました

こちらにあるのでもなく
あちらにあるのでもなく
つまりこの世は神が創ったのではなく
つまりこの世は神が創ったのではなく

初期宇宙は光りに対して不透明でした
初期宇宙は光りに対して不透明でした

宇宙が膨張によって冷却すると温度が3000K以下にまで下がり
宇宙が膨張によって冷却すると温度が3000K以下にまで下がり

中性原子のみとなった宇宙で放射はほぼ妨げられることなく進むことができます
中性原子のみとなった宇宙で放射はほぼ妨げられることなく進むことができます

愛ちゃんは、泣きました
愛ちゃんは、泣きました

がんばってやってきてよかったなと思いますと言い、愛ちゃんは泣きました
がんばってやってきてよかったなと思いますと言い、愛ちゃんは泣きました






加藤閑  夏野の果て


地に落ちし塩粒光る夏の朝

表札に蟻這ひ登る暑さかな

原爆の前の世界も麦の秋

海亀の青き甲羅に斉唱聞こゆ

聖母子の眼に傷ありて西日射す

脳髄に鱏横たはる戦後かな

観覧車夏野の果てにまはる音

世界地図画鋲の痕に夏果てる

老優の靴のなかまで夕立かな

夜の秋鏡の深さに手を入れる



古川ぼたる 八月の白い道


八月の乾いた跡は
あのナメクジの通った道
ぬらぬらと粘液で覆われたあのナメクジが
朝の花びらを食べ飽きて
濡れた日陰に帰って行った時間
早くしないと正しい太陽が姿を見せて
体を覆うぬらぬらを
からからに罰してしまうから
太陽の正しい光が届かない場所で
どうしてもぬらぬらしてなければ生きてはいけない
だから生きていくと言う事は
いつもぬらぬらと
どこをどう千切ってもぬらぬらしているばかりで
個体とは思えないから
気味の悪いぬらぬらは
内側も外側もない
そのままのそれだけで
影や深さと無縁な
醜いぬらぬらは
どこが始まりでどこが終りなのか
形らしい形も無ければ
前後もはっきりしないぬらぬらに
目指す目的などあり得ない
音も無くどこをどうやってここに来たのか
声さえ持たないぬらぬらは
私の舌のようにいつもぬらぬらと
静かに夜明け前の花びらを食べ
私の食道のようにいつもぬらぬらと
日没に熟した果実を食べ
私の肛門のようにいつもぬらぬらと
世界の光りの正しさから遠く離れて
八月の白い道


 
葛の花

今生はせわしき生計油蝉

尿してアバヨと黄泉へ油蝉

発熱の小児科医院凌霄花

老猫の欠伸の舌よ夾竹桃

朝顔は幾千問いて空の色

うつせみの宿世の泥よ夜の雨

行間の赤線若き雲の峰

明けやらぬ雌蕊に眠るなめくじり

妻の胸見知らぬ光り月見草

独り居の網戸を襲うカブトムシ

立秋や毛深き臍の父だった

酔芙蓉臨月近き臍立ちぬ

亀の首妻を待ちたる涼しさよ

ただ一冊の偽書をください合歓の花

ギシギシやサグラダファミリア三千塔

露わなり2穴の猫よ稲光

来歴は不明葡萄の苦汁かな

冬瓜や縁なき衆生に晒し首

その日まで日ごとに伸びる葛のつる

夜を残す幹に絡まる葛の花